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約款とは?民法改正によって整備されたルールや作成する際の注意点を詳しく解説します!

約款(やっかん)とは、事業者が不特定多数との間で取り交わす契約条項です。定型として契約条件を定めておけば、不特定多数の顧客との契約が必要な際に、個々に契約を定めなければならない労力を削減できます。

本記事では、約款と契約・規約との違いや民法改正によって整備されたルールについて解説します。また、約款を作成するケースや作成する際の注意点についても解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

約款とは?

約款は、多数の顧客との契約を効率的に行うために、設けられる標準的な契約条件です。たとえば、交通機関の運送約款や、公共サービスの供給約款、保険の加入時の約款、インターネットサービスの利用規約などが該当します。
これらの約款は、個別の契約をその都度作成して、管理する手間を省くのが目的です。これにより、企業は多数の取引を迅速かつ安定的に処理できるため、契約業務の効率化が可能です。
たとえば、保険会社は生命保険や損害保険の約款を作成し、電力会社は電気供給約款を作成しています。こうして、契約内容を事前に標準化しておけば、契約の管理や運用が簡便になり、企業と顧客双方にとって高い利便性を保てます。

契約や規約との違い

契約や規約との違いについては、以下の表のとおりです。

相手方取り決め内容
約款不特定多数典型的な契約条項
契約当事者間個別具体的な条件
規約不特定多数提供するサービスのルール
※法律上の定義はなし

まず、約款とは、多くの顧客との間で標準化された契約条件を用いる場合の定型的な契約条項です。不特定多数を対象とし、特定の条件にもとづいて契約が結ばれます。
一方、契約は特定の当事者間で結ばれるもので、取引の内容や条件が具体的かつ個別的です。規約については、提供されるサービスに関するルールを記載したもので、不特定多数を対象としますが、法律上明確な定義は存在しません。
このため、「利用規約」として知られているものは、法的には約款とみなされ、そのルールが適用される場合があります。

民法改正によって整備されたルール

次は、民法改正によって整備されたルールについて解説します。

  • 定型約款の定義
  • みなし合意
  • 定型約款の変更要件
  • 定型約款の表示義務

それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。

定型約款の定義

改正された民法では、従来のさまざまな「約款」の概念を区別し、「定型約款」として新たに定義されました。定型約款とは、特定の者が不特定多数を相手に行う取引であり、その内容が画一的で双方にとって合理的なものです。
さらに、取引の内容が契約の一部として準備された条項の総体を指します。たとえば、鉄道やバスの運送約款、電気やガスの供給約款、保険約款、インターネットの利用規約などがこれに該当します。
これらは、事業者が多数の相手と合理的な条件で取引をするために準備されたものです。しかし、一般的な事業者間の取引で使用される契約書のひな型や労働契約のひな型は、定型約款には含まれません。

みなし合意

新しい民法では、定型約款についての明確な規定が設けられました。定型約款とは、特定の取引において、事前に準備された契約条件の総体です。
これには、不特定多数の者を相手に行う取引で、個別に交渉するのではなく、画一的な条件が適用されます。契約当事者間での合意や、取引時に定型約款を契約内容とする旨の表示があれば、その約款は契約の一部として認められます。
しかし、定型約款の条項が一方的に相手方の権利を制限し、社会通念に反する場合は、合意がなかったものとみなされ、その条項は契約に含まれません。
また、顧客が約款内容を確認できるよう求めた場合、提供しなければならず、拒否すればその約款は契約の一部と認められなくなります。なお、電車やバスの運送契約など、表示が難しい場合は、公表によって代替される特則が設けられています。

定型約款の変更要件

改正民法において、定型約款の変更に関する要件が明確化されました。定型約款の変更は、以下の特定の条件を満たす場合に限り認められます。

  • 変更が相手方にとって一般的な利益に適合する場合
  • 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性や変更後の内容の相当性など、さまざまな事情を総合的に考慮して合理的である場合

契約者に対して、約款変更の通知と内容の周知が必要であり、これを怠ると変更は無効となります。約款中に「当社都合で変更する場合がある」と明記してあっても、一方的に変更できないため、適切な手続きと通知が欠かせません。

定型約款の表示義務

定型取引の際、契約締結前に必ずしも約款を提示する義務はありませんが、事前に約款の内容を確認したいと考える人も少なくありません。このため、民法548条の3第1項では、定型約款を準備する側が、相手方からの請求に応じてすみやかに合理的な方法で約款の内容を示す義務を規定しています。
もし、相手方が約款の開示を求めたにもかかわらず、それを拒否した場合、約款の内容は契約の一部とみなされません。

約款を作成するケース

次は、約款を作成するケースについて解説します。

  • 不特定多数との契約を対象としている
  • 不特定多数に同一のサービスを提供する

それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。

不特定多数との契約を対象としている

個々の顧客と一対一で契約を結ぶのは現実的ではないため、あらかじめ作成した約款に同意してもらえれば、スムーズに契約の法的効力を確保できます。この方法は、時間と手間を大幅に削減できるため、企業にとっても効率的です。
また、約款で契約内容や双方の権利義務を明確化しておけば、後々のトラブルを防ぐ役割があります。

不特定多数に同一のサービスを提供する

約款は、特定のサービスを多くの顧客に提供する際に、その内容と条件を統一するために用いられます。サービス提供者が法的な効力を持つ約款を作成しておけば、個々の契約における条件の違いを避けられるためです。
また、多くの顧客に対して同一のサービスを提供する場合、約款の作成が一般的であるため、サービスの条件を明確にしておけば、顧客とのトラブルを未然に防げます。さらに、約款は契約書としての役割も果たし、法的なトラブルを回避するための手段になります。

約款を作成する際の注意点は3つ

次は、約款を作成する際の注意点について解説します。

  • 相手方の権利や利益を著しく制限しない
  • 約款が法律に反した内容でないか調査する
  • 作成後はホームページで公開する

それぞれの詳しい内容についてみていきましょう。

相手方の権利や利益を著しく制限しない

2021年4月1日に施行された民法の改正により、約款に関する条文が新たに追加され、約款の法的効力に関するルールが変更されました。この改正により、約款の内容が相手方の権利や利益を大きく制限する場合には、その条項が無効となる可能性があります。
具体的には、約款の個別条項が以下の2つの条件を満たす場合、当該条項は無効です。これにより、顧客からの同意を得たとしても、法的効力を持たないため注意が必要です。

  • 相手方の権利を制限するか、相手方の義務を増加させる条項であること
  • 定型取引の態様やその実情、取引上の社会通念に照らし、民法1条2項の基本原則に反し、相手方の利益を一方的に損なうものであること

約款が法律に反した内容でないか調査する

契約書は多くの場合、不特定多数の一般消費者と取引をする際に使用されるため、民法や消費者契約法、特定商取引法などの法律が適用されます。このため、会社が作成した契約書がこれらの法律に違反していないか慎重な調査が必要です。
また、違法な内容が含まれていると、契約の効力が無効になる可能性があり、企業にとって大きなリスクとなります。

作成後はホームページで公開する

取引前または取引後に顧客からの請求があった際、約款を閲覧可能な方法で提供しなければなりません。これには、書面や電子メールでの送付、あるいはホームページに掲載する方法が適しています。
なお、事業者が顧客に対して定型約款を交付、またはインターネット等で事前に提供している場合には、追加の開示義務は発生しません。

まとめ

本記事では、約款と契約・規約との違いや民法改正によって整備されたルール、約款を作成するケースや作成する際の注意点について解説しました。
約款とは、不特定多数の相手との契約に関して事前に定められた一方的な契約条件です。これは、契約や規約とは異なり、使用者が一方的に設定する点が特徴です。
また、民法改正によって定型約款の明確な定義やみなし合意の規定、整備要件、表示義務が変更になっているため、企業担当者の方は注意してください。
なお、約款を作成する際は、相手方の権利を不当に制限せず、内容が法律に反していないか念入りにチェックし、ホームページや電子メールなどによる公開が必要です。

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